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2022.09.22

55+(55歳からの北欧ライフスタイル)
第8回 都心のオアシス 「コロニーロット」の楽しみ方

日本では「アクティブシニア」と言われますが、スウェーデンには「55+(フェムティオフェムプルス)」という言葉があります。
これは、55歳からの熟年世代、65歳で定年になる10年前から老後の人生設計を始めようという考え方です。
子育ても一段落して、自分の時間が持てるようになる「55プラス」世代。
そんな心身ともに充実した方ののライフスタイルを、北欧スウェーデンから日本へお届けします。

Written by ブルセリド山本 由香/Photo by Peter Bruselid

100年以上続く市民農園 「コロニーロット」とは

 スウェーデンの長かった冬がやっと終わる4月から、紅葉の季節である10月くらいまでは、コロニーロットが楽しめるシーズンです。コロニーロットとは、広い土地を分割して個人に貸し出す市民農園のことで、100年以上続いている自治体管轄のシステム。コロニーロットは都会のオアシスであり、ストレスの多い現代社会で、都心にいながら身近に自然があることはとても貴重です。ストックホルムは集合住宅が主流のため、庭のない暮らしをしている人々は多く、ガーデニングが楽しめるコロニーロットを手に入れたい人はたくさんいます。しかし数には限りがあるため、今では順番待ちに10-20年待つと言われています。

 自然に囲まれたコロニーロットは市民にとっての憩いの場であり、ツーリストやさまざまな人が、美しく咲いた花を見に訪れます。秋には収穫祭があり、自慢の花のブーケや、コロニーロットで収穫したりんごをジャムやジュースにしたものが売られています。

 また、コロニーロットの主な目的は栽培ですが、野生動物を保護するエコシステムも考えられています。鳥やコウモリのために巣箱や餌を用意したり、倒れた木をそのままにして昆虫や蝶が過ごせるようにしたり、リスなどの小動物が安心して来られるように環境を整えているのです。そのため、作業をしている最中に鳥が餌を求めてやってきたり、リスが現れたり、小動物たちとのふれあいもあります。

 コロニーロットには小屋があり、ちょっとしたソファやテーブルなどの家財道具を置いて、室内で過ごす場所にしています。かわいいインテリアで飾られた小屋の中に入ると、まるで小さなお家を訪れた気分です。農園にこんな素敵なスペースを作ってしまうのは、さすがインテリア大国の人々です。コロニーロットは毎日のように手入れや水やりが必要なので、時間に余裕のある55+世代が主な利用者です。

 今回は、ストックホルムの南地区にある1906年から続くエリクスダルスルンデ/Eriksdahlslundenを取材しました。私の義姉がここにコロニーロットを持っていて、私たちもその中の一画を借りて花や野菜を育てているので、毎週のようにきている場所です。まわりには本当に上手に花を育てている人が多いのですが、その中でも特にガーデニング上手(Gröna fingrar/グリーンサム)と言われる、20年以上のベテランのコロニスト(コロニー所有者)のおふたりを訪ねました。

グンヴォル・ハールスさん(74歳)

 フィンランド系スウェーデン人のグンヴォルさんのコロニーロットは義姉のすぐ隣にあり、来るたびに咲く花が変わっている彼女のお花畑を見るのが楽しみです。春先にはチューリップが咲き、その次にはポピーが咲き、今はまた別の花が咲いています。どうすればそんな素敵なお花畑ができるのかと尋ねたら、「20年のコロニストの賜物よ」という返事が返ってきました。

自慢のお花畑について話をするグンヴォルさん
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 そんなグンヴォルさんがこのコロニーロットを手に入れたのは2002年です。ここのコロニーロットができた1906年頃から親族が持っていたため、それを代々受け継ぐことができたのは幸運でした。でなければ、10年は待たなければ手に入りません。受け継いだころのコロニーロットはジャガイモなどの野菜ばかりだったので、今のようなお花畑にしたのはグンヴォルさんです。「何をどのように植えるかを考えるのが一番楽しくて、ガーデンの様子が変わっていくのを見るのが嬉しい」といいます。

コロニーロットに季節ごとに咲く花
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コロニーロットに季節ごとに咲く花
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 小さなお孫さんが時々訪ねてくるので、子どもが遊べるように芝生のスペースも作っています。野菜は区画を決めていて、じゃがいも、にんじん、豆類、トマト、スクワッシュ、きゅうりなどを育てています。野菜の区画といっても、ところどころに花を植えて、野菜の成長とともに、花が咲く様子も楽しんでいます。今年じゃがいもを植えた場所に来年はにんじんを植えるなど、同じ野菜を毎年同じ場所には植えず、場所を入れ替えることで土の栄養がよくなるそうです。

コロニーロットで作業中のグンヴォルさん
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野菜を植えている区画
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 小屋にはソファやテーブルが置かれ、小さなリビングルームのようです。壁には古い刺繍や、このコロニーロットの持ち主たちだった親族たちの古い写真、親族が優秀ガーデニストとして表彰された賞状も飾られていました。グンヴォルさんのコロニーロットはここではいちばん高い位置にあるので、湖や向こう岸まで見渡せる絶景です。小屋の近くには、5年前に息子さんが母の日にプレゼントしてくれたという、まだ背丈の低いりんごの木があります。昨年はいくつか実もなり、この木の成長を楽しみにしているそうです。

室内の小物も可愛らしい
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まるで本当の家のように飾り付けている小屋の室内
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コロニーロットの持ち主たちだった親族たちの古い写真も
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エリサベット・オロフソンさん(73歳)

 このあたりでは珍しいヤマボウシのあるコロニーロットを持つエリサベットさんが、ここを手に入れたのは2004年。3つのコロニーロット協会に入り、10年待ってようやく順番がまわってきたそうです。エリサベットさんはバルコニーのない集合住宅に暮らし、ずっとガーデンのある暮らしに憧れていました。1人暮らしなので遠くにあるサマーハウスを持つよりも、歩いて行ける距離にコロニーロットを持つことを決めていたそうです。

エリサベットさんのコロニーロット
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「時期によって咲く花が変わっていくのを見るのが楽しみ」というエリサベットさんは、どこに何をいつ植えたかをガーデニングプランに書き留めています。「せっかく植えたのにダメになってしまった花もあれば、もう20年近く育っている花もあるのよ」。いつ何を植えたかを知っておくと、今後のガーデニングプランも立てやすくなります。「シャクヤクは、私がここを手に入れる前から咲いていたもので、今でも毎年紅色の大きな花を咲かせてくれるの。シャクヤクはいくつかの箇所に植っているのだけど、太陽の当たり方が違うのか、花の咲く時期が少し違うのよ」。

コロニーロットに咲く花
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もうすぐ咲きそうなシャクヤク
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作業中のエリサベットさん
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 日本に行ったことがあるエリサベットさんは日本の植物が好きで、ヤマボウシは2007年に苗木を買ってきて植えて、今では毎年初夏に花を咲かせます。3年ほど前に白い小石を散りばめた枯山水のようなスペースを作り、柳やもみじを植えています。りんごの木は亡くなったお母さまが持っていた木の枝を10年以上前に植え付けたもので、今ではも毎年実がなっています。洋梨の木は最近植えたもので、今年実がなるかが楽しみです。

2年前に植えたもみじ
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白い小石を散りばめた枯山水のようなスペース
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 気温の下がる冬にはガーデニングから離れて別のことに時間を費やし、春になるとまた毎日のようにここへやってきます。4月になって一番初めにすることは、枯れた枝や草を取り除くこと。少しずつ手入れをすることで、緑が増えていきます。暖かくなる頃には毎日のようにやってきて、美しく咲いた花を見ながら朝から夕方まで時間を過ごすのが幸せなひとときです。

お気に入りのインテリアで飾られた小屋の室内
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コロニーロットに植えられたヤマボウシ
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Written By 山本 由香
ストックホルム在住のデザインコンサルタント。スウェーデンのデザインとライフスタイル情報を発信するサイト「スウェーデンスタイル」を主宰しながら、スウェーデンと日本をつなぐ活動を行っている。北欧のパターンデザインに特化した事業スカンジナビアンパターンコレクションも展開中。

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