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2026.04.10

Timeless Re Discovery ~時を超える佇まい~
熊澤酒造

訪れたのは、湘南で唯一残る蔵元。その敷地はゆたかな緑に包まれ、古民家や蔵が軒を連ねます。実はこの景色、6代目が30年近い歳月をかけて育んできたもの。「好きなものを集めた」と語るインテリアは国籍を問わず、北欧デザインも心地よく日本家屋に溶け込んでいます。そんな型にはまらない空間づくりのヒントを教えていただきました。

時間をかけて育まれたのはここにしかない蔵元の景色

 早春にはミモザが咲きほこるアーチをくぐると、木々の間にのびていく大谷石の小径。その傍らには、古い蔵造りのベーカリーやカフェが。そんな一角に佇むのは、築450年の古民家を移築したというダイニングレストラン。重厚な木の扉を開くと、大きなPHアーティチョークのライトが出迎えてくれました。

 お話をうかがったのは、 「茂吉」の名を受け継ぐ熊澤酒造の6代目蔵元。この場所を、たくさんの人々が訪れたくなるようなところにしようと、 「湘南」や「酒蔵」といったアイデンティティを軸に形にしてきました。「僕は、古いもの好きで。どこかから飛んできてボンッとつくられるようなものではなく、そこから自然と生えて森になっていくような、そんなものに惹かれるんです」と茂吉さん。それぞれに出会った古民家を移築し、丁寧に手を入れながら、そのまわりに植物を植えて……と、30年かけてつくり上げてきたといいます。

 インテリアも、まずは椅子を決めるところから、照明などを少しずつ組み合わせていったそう。北欧だけでなく、日本のものやフランス製のアンティークなど、その場その場を魅力的に彩っているコーディネートはさすがです。

 ダイニングレストラン「MOKICHI TRATTORIA」の奥には、フランス邸宅にあったというアンティークのクリスタル照明が。昭和初期のものだという鯉のぼりの取り合わせもお洒落です。
もともと土壁だった家屋の一部はガラス張りにリノベーションされ、外には瓦で土留めされた林が。季節が進めば、この瓦の間からもにぎやかに草木が芽を出し始めます。

一つずつ大事に選んだものが、さらに時を重ねて育っていく。そこには、心地よい住まいづくりにも通じるものがありました。

「湘南」という土地の個性も熊澤酒造のアイデンティティ

 湘南エリアに唯一残っている蔵元として、この地で酒造りをする意味も大事にしているという茂吉さん。改めて、湘南とはどんなエリアなのかうかがってみると、こんな答えが。

「湘南って、東京には通学や通勤をするんだけれども、東京には住みたくない、そんなふうに思っている人たちが集まる場所なんですよね。全国でも類似しているようなところがあまりなくて。田舎ではないんだけれど、東京のようなドレスアップもしないライフスタイルというか。東京で暮らす人にも違和感のない頃合いなんだけど、ドレスダウンしていて堅苦しくない。きちっとしているよりは少しカジュアルな感覚を楽しむ文化があるんです」

 その言葉通り、熊澤酒造がつくるこの場所は、洗練されていながらもけっしてつくり込みすぎていない心地よさがあるのも魅力。お酒をつくる場であり、お酒が飲める場所でもあり、それでいてカフェやマーケット、雑貨めぐりなども楽しめたりと、思い思いの過ごし方ができるのも、多くのファンを増やしている所以でしょう。
こうしたほどよく力の抜けた感覚は、良いものを長く愛用し、その味わいとともに日々を楽しむ北欧の暮らしにも、どこか重なるものがあります。

知る人ぞ知る「湘南ビール」は、お土産にも大人気。爽快な飲み口の奥に、コクとうまみが感じられる、無濾過・非加熱処理にこだわったクラフトビールです。「MOKICHI TRATTORIA」では、ミモザをイメージした前菜プレートも。その季節ごとに、ここ湘南ならではのメニューが楽しめるのも、ファンを虜にする理由のひとつ。

スクラップ&ビルドに嫌悪感。ますます古いもの好きに

 「北欧好きなの?とか言われるんですけど、基本的に僕は国籍にはあまりとらわれないほうですね。好きな時代としては、1900 年から 1960 年代くらい。もっと前も好きですけど、その頃はちょうど各国にもともと根づいていた文化がぶつかりあったような時代で。そこでは海外も日本もなく、どこか影響されあって生まれているというか。そういう頃の、無国籍感みたいなものが好きなんです」

 古いもの好きは生まれもってだという茂吉さん。逆にお爺さまは新しいもの好きで、当時から車や電卓を所有したりと時代の最先端をいっていたそう。古いものはどんどん捨てられ、コンクリート敷きになってしまった敷地を見て、思うところもあったようです。

6代目となった茂吉さんは、業界に自由化の波が来たタイミングだったこともあり、一時は廃業の危機にも立たされた苦難のとき、「まずはここを人が訪れる場所にしよう」とコンクリートをはがすことから始めたといいます。敷地内にあった蔵を曳き家して新たにベーカリーにしたり、もともとは鎌倉山にあった古民家を受け継いで移築し、ダイニングレストランにしたりと、少しずつこの場所はできていきました。

 「このダイニングレストランは築 450 年。鎌倉山に建っていたものが、そのあと金沢八景に移築されて百年ほど、そこからまたここへ移築したんです。当時、樹齢千年ほどの木を使っていたことを考えると、1450 年くらいに前に誕生した木でできているということですよね」
そんな歴史的なロマンも。バブル世代を生きた茂吉さんは、当時のスクラップ&ビルドな世の中にも言いようのない嫌悪感があり、それが古いもの好きに拍車をかけたといいます。

もともと大切な証書などを保存する蔵だった建物を、敷地内から曳家してベーカリーに (写真左)。 「MOKICHI Baker & Sweets」は、ビール製造過程で出るビール酵母を活かせないかというところから始まりました。併設されたカフェ (写真右)は、築 200 年の古民家を移築したもの。

蔵元料理「 天青」の建物は、大正時代の酒蔵をリノベーション。当時、酒樽をかき混ぜるための場所だったという 2 階からの景色も見ごたえがあります。

古き良きものを、どう生かし、どう楽しんでいくか

インテリアを決めるとき、茂吉さんにとっては椅子がひとつの重要なポイントになっているといいます。

「たとえば、この椅子がすごく好きだというと、この椅子の世界観とか、それと相性の良いものだとかも自ずと決まってきますよね。もともと僕は椅子が好きで昔から集めているのですが、空間を決めるときには結構、椅子がひとつのピースになっていると感じますね」

建物も椅子も、テーブルや照明も、それぞれに連綿と受け継がれてきた古いものたち。その良さを知る方が、時間をかけて大事に育ててきた場所に、そっと身をおいてみる。そこから体験する感覚的な心地よさのヒントは、何よりも居心地のいいことが絶対条件の家づくりにもつながっていました。

日本家屋には北欧デザインも素敵に映えると教えてくれる「MOKICHI TRATTORIA」の空間づくり。
「もともと北欧の近代デザインはジャポニズムを参考にしているわけだから、モダン北欧は日本を参考にしていて、それをまた僕らも大好きで参考にしている。そんなつながりも感じますよね」と茂吉さん。

BEFORE
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AFTER
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湘南の作家やアーティストの作品、古道具などを扱うギャラリーショップ「 okeba」。
この建物は、酒樽や道具の修理制作を行なう工房だった「 桶場」をリノベーションしたもの。器や道具、インテリアやファッション小物などがずらりと並んでいますが、時期ごとに入れ替わるものも多く、一期一会の楽しみがあります。

家づくりのスパイスになりそうなアンティークの建具や古道具なども販売されているので、そんなものたちを眺めて歩くのも楽しい時間。


30 年をかけて場づくりをしてきたこれまでについて、「時間とともに馴染んでくるという感じがしますね」と語った茂吉さん。「よく、古い酒蔵でも子どもが生まれると木を植えるといった風習がありますが、それが何十年何百年と経ってその場所のシンボルツリーになっていくような。ああいうのって、すごくいいなと思います」。熊澤酒造にはそんなふうに、「これが完成形」という決めつけがなかったことも特徴的です。

最初から完璧に仕上げてしまおうというより、常によりよきところを目指しながら育てていく感覚。何を残し、何をプラスして、今の気分を反映していくのかというのは、家づくりなら第二の“家生”、リフォームの役割です。もしかすると、そこですべてを決め切らずにどこか余白を残しておくくらいの気持ちというのも、この先の未来を楽しみにするスパイスになるのかも知れません。

《熊澤酒造》
所在地:神奈川県茅ヶ崎市香川 7-10-7
URL https://kumazawa.jp/
※開店時間・休日等は、各店舗の情報をご確認ください。

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