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2025.10.02

55+(55歳からの北欧ライフスタイル)
第11回 テレーセさん・ビョーンさん (55歳)「南スペインでベーカリーを開業」

日本では「アクティブシニア」と言われますが、スウェーデンには「55+(フェムティオフェムプルス)」という言葉があります。
これは、55歳からの熟年世代、65歳で定年になる10年前から老後の人生設計を始めようという考え方です。
子育ても一段落して、自分の時間が持てるようになる「55プラス」世代。
そんな心身ともに充実した方のライフスタイルを、北欧スウェーデンから日本へお届けします。

Written by ブルセリド山本 由香/Photo by Peter Bruselid

太陽を求めてー55歳を目前に移住を決意

テレーセさん・ビョーンさん
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冬の長い北欧の暮らしで最も大切なのは、「太陽を浴びる時間をしっかり確保すること」。これは、ただの健康法ではなく、生きるための知恵そのもの。日照時間が極端に短くなる冬には、心のバランスを保つのが難しくなり、季節性うつに悩む人も少なくありません。春先に太陽が明るく照り始めると、寒くても外に出て太陽の光を浴びようとする人々を見かける度、太陽への渇望は北欧に暮らす人々にとって切実なものであることがわかります。私自身も、紫外線を避けるよりも、太陽の光を浴びる大切さを知るようになりました。

「ヨーロッパのバルコニー」と呼ばれる観光スポットが有名な南スペイン、コスタ・デル・ソルの街ネルハ
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ところが、昨年と今年のスウェーデンは記録的な冷夏となり、例年のようなさわやかで心地よい夏の日差しにほとんど出会えないまま、季節が終わってしまいました。せっかくの夏に、肌にしっかりと太陽を感じることもできず、まるで「太陽の記憶」さえも薄れてしまったような感覚。そんな経験が続くと、「いっそ太陽のある国へ移住してしまおう」と考える人が増えるのも自然な流れです。

夏には多くの人がネルハの海岸で海水浴を楽しむ
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今回は、その「夢」を実現させたスウェーデン人のロマーニ夫妻をご紹介します。奥様のテレーセさんは、私の夫の親戚にあたる方で、スウェーデンに移住して以来、もう20年以上にわたって親しいお付き合いをさせていただいています。彼女たちが正式に結婚したのは、3人目のお子さんが生まれた後のこと。スウェーデンでは、事実婚が一般的であるため、子どもを持ってから結婚するというケースも珍しくありません。実は私にとっても、スウェーデンで初めて参列した結婚式がこのご夫妻のものでした。

パン職人のビョーンさんは朝早くから働く
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奥様のテレーセさん
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夫のビョーンさんは、パン職人として長年ストックホルムのいくつかのベーカリーで経験を積んだのち、2010年に兄弟とともに「Åsöbageri(オーソバゲリ)」を開店。シナモンロール、カルダモンロール、プリンセスケーキなど、スウェーデンの伝統的な焼き菓子を扱うそのベーカリーは、地元の人々に愛される存在となり、私もたびたびフィーカを楽しみに訪れていました。当時、ご夫妻は3人の子どもたちの子育て真っ最中。家族はストックホルム郊外にサマーハウスを所有しており、長い夏休みには自然豊かなその家で過ごすのが恒例でした。時には、ビョーンさんがサマーハウスからベーカリーに出勤することもあったとか。自然と街、仕事と休暇をバランスよく行き来する、スウェーデンらしい暮らしぶりです。

スウェーデン定番の焼き菓子が並ぶストックホルムのベーカリー「Åsöbageri(オーソバゲリ)」のショーケース
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イースター時期には人気のセムラなどの焼き菓子が並ぶ
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しかし、子どもたちが成長するにつれ、家族でサマーハウスを訪れる機会は減少し、最終的には手放すことになりました。その後ご夫妻は、南スペインに別宅を所有する友人宅を訪れるようになり、コスタ・デル・ソルの街「ネルハ(Nerja)」で過ごす時間が増えていきました。このエリアには「スウェーデン村」と呼ばれる地域があり、約1,000人以上のスウェーデン人が暮らしているといわれています。物価が比較的安く、温暖な気候に恵まれたスペイン南部は、年金生活者を中心に人気の移住先として注目されています。

ネルハの海岸に近い場所にオープンしたベーカリー「NYBAKAT(焼きたての意)」
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そうした中、ネルハを訪れるたびに「ここにスウェーデンの味が楽しめるベーカリーがあったらいいのに」という声を耳にするようになったロマーニ夫妻。最初は夢のような話と思っていたものの、繰り返される友人たちの言葉に背中を押され、やがて本気で出店を考えるようになりました。はじめは、海沿いの人気エリアでは物件価格が高すぎて断念しかけましたが、コロナ禍で空き物件が増えたことが転機となり、理想的な場所と条件に出会うことができました。そして2022年2月、「NYBAKAT(スウェーデン語で“焼きたて”の意味)」という名前のベーカリーをオープン。店名には、スウェーデンの家庭のような温かさと、毎朝の焼きたてパンの香りを届けたいという想いが込められています。

「NYBAKAT」の店内
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当時、ご夫妻はまだ55歳に達していませんでしたが、近づいてくる「55+」のライフステージを見据え、第二の人生のスタートを切ったのです。EU圏内という地の利もあり、スウェーデンからの移住や就労は比較的スムーズ。厳しい冬と日照不足に悩まされる北欧から、太陽あふれる南欧へ。そんなライフスタイルの変化は、ますます多くのスウェーデン人の間で憧れとなっています。当初はのんびりとしたセカンドライフを思い描いていたものの、ベーカリーは予想以上の人気ぶりとなりました。観光客だけでなく、地元在住の北欧人コミュニティにも熱く支持され、オープンからわずか1年で2号店の出店を決意することに。年齢的にもまだ若さとエネルギーを保てる今だからこそ、「もうひとつの挑戦をしてみたい」と前向きに動き出したのです。

スウェーデンで人気のケーキ類も豊富
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店内にはスウェーデンの民芸品、ダーラナホースも
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2号店がオープンしたマルベーリャのフードコート
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現在、ご夫妻はネルハ郊外の高台にあるプール付きの一軒家で、2匹の愛犬と暮らしています。周囲にはマンゴーやアボカドの農園が広がり、窓からは遠くに海、背後には山が見えるという素晴らしいロケーション。観光地としても知られるフリヒリアナの村まで徒歩圏内で、愛犬との散歩も日課のひとつになっています。早朝3〜4時には仕事を開始するベーカリー業は体力的にハードですが、昼過ぎには仕事が終わり、午後はたっぷりと太陽の光を浴びながらのんびりとした時間を過ごすことができる生活は、まさにスウェーデン人にとっての理想そのものです。

高台にあるビョーンさんとテレーセさんのご自宅
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海辺で愛犬と散歩するビョーンさん
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フリヒリアナが見渡せる高台まで愛犬と散歩するテレーセさん
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2号店は、ヨーロッパでも屈指の高級リゾート地として知られる「マルベーリャ(Marbella)」のフードコートに構えられました。現在は、20歳を過ぎたばかりの末娘マヤさんが店長として店舗を切り盛りしています。マヤさんが高校3年生の時にロマーニ夫妻がネルハでベーカリーを始めたため、マヤさんは夏休みには家族の元を訪れ、ベーカリーを手伝っていました。卒業後は両親の元に移住し、スペイン語を学びながらベーカリーの運営に加わるようになりました。夏にはスウェーデンから友人たちがバカンスを兼ねて手伝いに訪れ、店舗はいつも賑やかで、まるで家族の延長線上にあるような温もりが感じられる空間となっています。

ネルハに近い人気の観光名所、フリヒリアナの景色
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「人生は一度きり。子育てを終えた今だからこそ、思い切って夢を形にしたかった」と話すロマーニ夫妻。太陽のもと、自分たちのペースで生きていく選択をしたふたりの姿は、多くのスウェーデン人にとって「こう生きてみたい」と思わせる理想のライフスタイルになりつつあります。

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