新旧「オイルスマッシャー」の開発秘話が聞きたい!(後編)
「10年間ファンのお掃除不要※」で知られるFUJIOHのオイルスマッシャー。ひと口に「お手入れが簡単なレンジフードの開発」と言っても、高速回転するオイルスマッシャーのディスクをワンタッチで取り外せるようにしたり、油を捕らえながら空気は通るようにしたり――前編では、そんな無理難題を一つひとつクリアしてきた開発者のご苦労を教えていただきました。後編では、さらに詳しく掘り下げていきます!
(写真左から)
UX開発本部 要素開発グループ 越智 貴志さん
UX開発本部 企画開発部 先行設計課 山岸 智和さん
UX開発本部 企画開発部 先行設計課 佐竹 裕太さん
小さな「つまみ」の完成までに、たくさんの試作を重ねて
――第二世代のオイルスマッシャーはディスクのつまみが取り外せるようになって本当に洗いやすくなりましたが、高速回転するディスクをしっかり固定しながらワンタッチで外せるようにするのは、確かに難しそうですね。どんなふうに開発されていったのですか?
山岸 まず、世の中に似たような仕組みのものがほかにあるかもしれないと、特許を調べたり、ホームセンターなどへ探しに行ったりもしました。でも、そのまま使えるものはなくて。そこからいろいろと試行錯誤して……大きく形を変えたものだけでも、30種類くらいは試作していますね。
――使う側は「便利だな!」とは思うものの、まさかこの小さなつまみを外せるようにするだけで、そんな大変なご苦労があったとは……聞いてみないとわからないものですね。
山岸 ディスクは車のタイヤ並みに高速で回転するので、当然、強く保持しなければなりません。少しでもガタがあると異音が出てしまったり、振動でレンジフード本体が揺れてしまったりするんです。ただ、お手入れをしやすくするには、やはりワンタッチで外せるようにしたい。しかも、このつまみの部分って、左右非対称なんですよ。重心がずれているので、そのまま回すとブレてしまうんです。
――なるほど、確かに! 付け外しの部品などがあって左右対称ではないですね。
山岸 そのため、外からは見えない内部に肉を付けるなどしてバランスを取っているんです。重心の軸がずれないように。
――本当に繊細なバランスで設計されているんですね……。
越智 ディスクも同じなんですよ。ほんの少しでもバランスが崩れると、ブレてしまう。これだけ多くの穴を開けて平らな面に仕上げるというのも、技術的にはとても難しいんです。一度に穴を開けると歪んでしまったりするので、そこも計算しながら段階を踏んで。指で触って引っかからないことも大事です。スポンジで洗ったときにザラザラ、ギシギシするようでは、お掃除もしにくいですからね。
油の捕集性能と洗いやすさを両立するフィルターの進化
――レンジフードのフィルターの開発も、歴史がありそうですね。
越智 当初は、丸い穴がたくさん開いたパンチングフィルターが使われていました。平らなのでお掃除はしやすいのですが、丸い穴から空気がそのまますり抜けてしまって、油の捕集性能はあまり高くありませんでした。
その次に登場したのが、カットベンドのフィルターです。正面から見たときに向こう側がほとんど見えない形になっているもので、空気の流れがそこで曲げられ、油が空気から分離されます。当時としては非常に画期的な仕組みでした。ただ、この目に汚れがつまりやすく、歯ブラシで落としたりなど、お手入れが大変なイメージがあったかと思います。
(写真上)現行の「スロットフィルタ」を手に解説する越智さん。これもカットベンドだが、油をはじくファンシークリーンが施されている
それから、穴を細長くして表面を平らにした「アクアスリットフィルタ」が生まれました。油の捕集性能を保ちながら、お手入れをしやすくしたものです。表面には親水系のコーティングも施して、水で簡単に汚れが落とせるようになりました。
(写真上)左から、「アクアスリットフィルタ」、カットベンドの「スロットフィルタ」、そしてオイルスマッシャーのディスク
――オイルスマッシャーを最初に試作したときは、どんな穴だったのですか?
越智 最初はただの丸い穴でした。それでもディスクを回転させるだけで、捕集性能が大きく上がったんです。ただ、丸い穴は汚れが詰まりやすく、スポンジでは洗いにくいところがありました。そこで、スポンジが目の中へ多少入り、詰まった汚れがスーッと取りやすいように、細長いスリット状の穴にできないかと考えたんです。
――丸いよりも、細長いほうがスポンジで汚れがかき出しやすいわけですね。
越智 はい。ただ、試作の段階では原理として機能すれば良いわけですが、商品としてお客様に届けられるようなものにするまでには、さらに油の捕集性能や清掃性、加工性を高めて、価格も抑えられなければなりません。そうして性能、品質、コストを追求した結果が、今の形なんです。
捕らえた油の「行き先」まで確かめる試験も
――レンジフードの開発段階では、どのような試験があるのですか?
山岸 細かなものまで含めると、60以上の試験があります。実際に調理をしてみる試験もあれば、調理をしない環境で風量や騒音を測る試験もあります。
越智 油の捕集試験には一般財団法人ベターリビングという第三者機関が定めた基準があって、油煙を発生させて、そこで発生した油の量と、フィルターで捕集した油の量を、重さで測る方法がとられます。FUJIOHでは、その基準に基づく評価に加えて、実際の使用状況を想定したホコリなども混ぜながら試験しているんです。
油をどれだけ捕集できたかだけでなく、捕集した油がどこへ流れるのか。期待していない場所へ流れていないかといったことまで確認しています。
――油が取れたとしても、それが本体や壁などへ飛んでしまえば、結局そこを掃除しなければなりませんからね。油を捕らえたあとの空気の流れも重要なんですね。
越智 油を取るには、油煙をディスクに衝突させなければなりません。そうすると、必ずそこで風が乱れるんですね。その乱れた風を、ディスクを通過したあとにもう一度きれいに整えたい。そこまできちんと設計できれば、予期していないところへ油が飛ばなくなるわけです。オイルスマッシャーは、「ディスクより先は汚さない」というのがコンセプトなので、そこで油を取ることと、そのあとの風の流れも大切なんです。
住宅が高気密化して、室内の負圧に負けずに空気を屋外へ送らなければならなくなって、レンジフードにシロッコファンが使われるようになったわけですが、昔の台所にあったプロペラ式の換気扇にはフィルターが付いていませんよね。レンジフードでグリスフィルターが必要になったのは、ダクトを使って屋外へ排気するようになって、その内部を汚さないようにするためだったんです。
(イメージ図)オイルスマッシャーのディスクは、その奥にある「シロッコファン」や、その先のダクトに油汚れが付着するのを大きく軽減することができる (提供:FUJIOH)
――スウェーデンハウスも高気密住宅ですから、関係の深い話ですね。
越智 もしも天ぷら火災などが起きた場合、ダクトに付着した油が燃料となって火災を助長する可能性もあると言われています。オイルスマッシャーは空気を外へ送るシロッコファンのお掃除が楽になるだけでなく、その先のダクトの汚れが軽減できるのも大きなメリットなんですよ。
お手入れの仕方にあわせて部品ごとにコーティングを使い分け
――10年間ファンのお掃除は不要※ですが、取り外せる整流板やディスクのお手入れ、外側の拭き掃除などは必要になってきますよね。でも、それぞれの場所にこだわりのコーティングがされて、お手入れもかなりしやすくなっているとか。
越智 オイルスマッシャーのディスクには親水系のコーティングがされていますが、グリスフィルターなどにも施されています。これは、使っているときには油汚れをしっかりキャッチして、洗うときには水が表面についた汚れとの間に入って浮かせるので、汚れが落としやすくなっているんです。
(親水系コートのイメージ ※提供:FUJIOH)
――強くこすらなくても、するする汚れが取れそうですね。
越智 硬いもので強くこするとコーティングが傷んでしまうので、普通のスポンジでやさしく落としていただきたいですね。それで十分に汚れは落とせますので、硬いたわしやメラミンスポンジなどは避けていただきたいと思います。
――そこはゴシゴシ洗っていた昔の感覚とは違うので、気をつけないといけませんね。最後に、皆さんが考える「理想的なレンジフード」を教えていただけますか?
山岸 レンジフードはキッチンの一部で、いつも目にするものです。だから、やっぱり暮らしの中に溶け込んで、その存在を意識しなくても快適さが感じられるものが良いのかなと。煙やニオイをしっかり捕集することはもちろん、お手入れの負担を減らして、その性能を長く維持できることが大事だと思います。
佐竹 あとは、音とのバランスを取ることも必要なんだと思います。LDKが一体になったキッチンでも、その機能を果たしながら毎日を快適に暮らせるレンジフードにしていくことが大切ですね。
越智 究極的には、吸い込み性能を高めながら、全体の排気風量を下げたいんですよね。大量の空気を屋外へ排気すると、せっかく冷暖房した室内の空気も一緒に捨てることになって、空調のエネルギーロスも増えます。音やファンの消費電力の問題もありますしね。
料理で発生した油煙を、できるだけ少ない風量で確実に捕らえられれば、ファンを小型化でき、消費電力も音も小さくなって、お手入れする箇所も減らせます。見た目も、よりスタイリッシュにできるかもしれない。オイルスマッシャーの第二世代も、常に大風量で排気するのではなく、センサーで必要なときを判断して必要な分だけ吸い込む機能がついていますが、そうしたところも、これからのレンジフードとしてあるべき姿なのではないかと思っています。
※「お掃除不要」とは、レンジフード内部が汚れないという意味ではありません。普及製品:BDR-3HL(富士工業製)の1年間相当の油が付着する期間が、オイルスマッシャー搭載製品は約10年となるため、製品設計上の標準使用期間中はお掃除をする必要がないとしています。普及製品について1年に1回ファンを清掃することを前提としています。